夢分析、オカルトなど、さまざまな先入観が持たれることの多いユングの心理学であるが、その根本は対話である。スイスの精神科医・心理学者C(カール).G(グスタフ).ユングの心理学は、深層(しんそう)心理学の一つと分類されている。深層心理学とは、私たち人間のこころの働きには、意識のコントロールや無意識の働きが大きな位置を占めるとする立場の心理学である。ユングは夢分析を中心とする心理療法の基本理論として、あるいは集合的無意識や元型(げんけい)や共時性(きょうじせい)、布置(ふち)などがあるが、ユング心理学は対話の心理学である。ユングの対話は、患者を寝椅子に横たわらせて分析家はその背後に座って患者の話を聴くのではなく、お互い椅子に座って対面し対話するという方法をとった。これは医師の権威的なものから解放し、より人間味のあるものにした。また、合理性だけでは割り切れない人間のこころをそのままとらえようとし、その結果、ユング心理学は人間の内面とよりよく対話していくための心理学になった。
両者のしっかりかみ合ったやりとりによって、お互いに深め合ったり高め合ったりすることが、対話である。対話とは、お互いの緻密(ちみつ)な反応を積み重ねていくと言う意味でのしっかりと噛(か)み合ったやりとりの積み重ねであり、そこから新しい気づきや発見が生まれてくる土台となるようなやりとりの事である。ユングは、患者と治療者とのやりとりを弁証法(べんしょうほう)的プロセスとした。この弁証法は、お互い対立するもの同士が影響を与えあいながらより真実に近づいて行ったり、深め合ったり高め合ったりしていくと言うことである。これは、患者とともに等しく治療に関わり、両者の間に一方通行でない相互(そうご)作用が存在する事を示している。ユング心理学の根底(こんてい)に流れているのはこの姿勢なのである。
人間は、愛と憎しみ、正義感と邪悪な心、強気な心と弱気な心という正反対の気持ちを同時に抱えている。ユング心理学では、人間の心には常に相反(あいはん)する気持ちが同時に存在すると考える。愛と憎しみでは、恋人と別れるなどと言うときは、別れたい気持ちと別れたくない気持ちが同じ強さで働く事が多い。母親の場合、包み込まれる様に愛されたいと願いつつ、その愛に呑み込まれてしまう恐怖を抱いて、自分からその愛に遠ざかって行く場合がある。また、権威(けんい)のある人に反発しながら、認めてもらいたいという気持ちや、その人を倒して乗り越えたいという気持ちが存在する場合がある。これらはその時は無意識だが、後からわかる。さらに正義感と邪悪な心、強気な心と弱気な心、男らしい気持ちと女らしい気持ち、これら複数の正反対の性質を持つ気持ちや働きが同時に作用しているのが人間の心である。